



家づくりには建築士の存在は欠かせないものですが、設計事務所となると、どうも「敷居が高い」「とっつきにくい」などのイメージがあるようで、なかなか依頼ができないという話を耳にします。
そこで、一級建築士事務所 設計処櫻での「家づくり」が実際にどのように進められるのかをご紹介したいと思います。今回はその第2回目。
間取りの確定と基本設計
前回の決断と設計契約を経て、提案プランから図面をつくっていく作業へと進みます。
今回は、基本設計図書(確認申請などに必要な最低限の図面)、実施設計図書(実際の施工に必要となる仕様や詳細が書き込まれた図面)を元に、数社に見積り依頼をして適正な価格で、信頼できる施工会社に決定する予定。ですから、建物本体はもちろん、設備機器や照明器具まで、おおよその金額を把握しながら設計を進めることになります。
間取りや全体のイメージはほぼ確定していたものの、いざ仕様を決定するとなると迷うのが施主心。木のサッシは?キッチンは?浴室は?などと様々な『選択』がでてきます。選択肢が多いことも事務所依頼のメリットですが、限られた中から選ぶより大変さは増すかもしれません。
1度の手直しで間取りは確定。そこからイメージを膨らませながら基本設計を進め、設備機器などを決めるためのショールーム巡りが始まります。
住宅の雰囲気づくり
この住宅のコンセプトは「古くなっても、その古さが味になる家」。設計は家具やカーテンなどインテリア全体をイメージしながら進めます。床は無垢の樺フローリング。壁は白っぽいクロスで、内部建具は既製品ですが木の自然塗料仕上げ。照明は間接照明を用いて雰囲気良く。カーテンは手作り感があり、オーガニックコットンのようなふんわりした感じ。施主であるKさんとの度重なる打合せの結果、とてもナチュラルな部分とスタイリッシュな部分が日常生活の中で上手く融合されるような、まさに「古さが味につながる」雰囲気になりそうです。
もちろん、忘れてならないのが建築費用。予算内で可能な部分と不可能な部分をふるいにかけていくことになります。
最初に検討したのが窓サッシ。木サッシを希望されていたKさんご夫婦。確かに風合いも良くコンセプトにピッタリ。できることなら使いたい。しかし、窓の大きさやデザインが限定されてしまうこと、比較的高価であること、そして何より、将来的に窓枠などの外部塗装のメンテナンスが必要である等のデメリットも。検討の結果、サッシは樹脂サッシを採用するという結論に。
設計を進めるにあたり、このようにメリットとデメリットを説明、相談しながら、施主と設計者が一緒になってひとつずつ決めていくことが最も大切で大変な作業なのです。
どうする?設備機器
家全体の雰囲気づくりを進めながら、設備機器を決める段階になってきました。1階廊下からつながる洗面台、2階トイレ横の手洗いなどは雰囲気を大切にして、タイル貼りの造作カウンターにボウルを設置することで決定。洗面と手洗いのボウルは選ぶのに時間がかかりそうなので「施主支給品」として見積り金額から除外することに。
便器については、1階はタンクレスで1階2階とも色は白またはアイボリーということだけを指定することにします。ただ、他の設備機器についてはデザインや雰囲気だけではなく、使いやすさ、お手入れの簡単さ、将来的なメンテナンスの容易さ、そして価格などが選択要因に加わりますから慎重に選ばなければなりません。
次は浴室。最初はタイル貼りの造作浴室のイメージも持たれていたKさんですが、暖かさやメンテナンスを考慮してユニットバスの採用となりました。何社かのショールームを巡った結果、浴槽が大きく、他のメーカーのものより若干ですが内部が広いものに決定。
キッチンも、使い易く収納もたっぷりな同メーカーのものを選択。浄水器などのオプションを含めた見積りをお願いすることになりました。
土地の契約
設計、概算見積りを進めているさなか、土地の仲介をする不動産会社から「そろそろ契約を…」との話が。そこで、施工会社が未決定でしたが、一部代金を支払っての契約を交わすことになりました。
Kさんの都合もあり、日曜日の午前中に不動産会社の事務所へ向かいました。重要事項説明の後に無事に契約です。
さあ、図面も実施設計に入りラストスパート。詳細決定までもう少しです。
キッチンの変更
依頼してあったユニットバスとキッチンの見積りが届きました。予想よりちょっと高めですが調整できる範囲でひと安心と思っていた時、Kさんご夫婦からシステムキッチンへの違和感を伝えられました。
奥様のお話では「システムキッチンは便利で素敵。でも、同じ位の金額でできるなら、便利さや耐久性が劣っても、愛着が持てるキッチンの方が毎日お手入れするのも楽しそうで…」とのこと。
この言葉を笑顔で伝えられたら全て納得です。この言葉には、システムキッチンを選びながらも、実は、心の中では憧れているイメージを暖めていた奥様が、反論されるのを覚悟の上、勇気を振り絞ったという感じを受けましたし、私にとっては「感覚や価値観は人それぞれである」という事をはっきりと思い出させてくれるカウンターパンチのようでした。
これから限られた時間の中で造作キッチンを考えるのは大変な作業ですが、住宅の全体イメージに統一性が生まれるのは確かなこと。「古さが味になる」という漠然としたコンセプトが「愛着のもてる空間で毎日を過ごしたい」という明確な思いへと進化したのです。
Kさんご夫婦は自分たちの持つイメージを私に伝えるために、様々な雑誌や書籍を購入して二人で検討を繰り返す努力を惜しみませんでしたし、私もできる限り応えてきました。
インターネットで気に入ったものが載っているホームページを探して互いにメールで教え合い、採用したのはコーラー社のダブルシンク、ロジェールのオーブン一体型ガスコンロ、丸くてかわいいレンジフード、そしてタイル貼りのキッチン天板とキッチン前の壁。それに合わせたセンター調理台の造作。それらを組み合わせてイメージと予算に合った形を考えていくのは私の仕事。
この話があってから3日後、奥さんも納得の図面がほぼ形になりました。気持ちが上手く伝わった時の作業はとても早く仕上がるものです。あともう少し、これを完成させると見積り依頼が間近です。
暖房と換気システム
この住宅は暖房と給湯にガスを採用しました。24時間換気システムを組み込んだ暖房方式で、ガス会社の説明では、ランニングコストはオール電化と変わらないとのこと。キッチンのコンロをガスにしたいという要望から採用したシステムですがここで問題が…。
みなさんご存知のとおり、釧路は天然ガスへの切り替え作業の真っ只中。この家の建築予定地での切り替えは来年の予定なので、ガス転換工事は引っ越してから半年以上も後になってしまいます。つまり、今の段階では効率の良いECO暖房給湯機器が設置できず、キッチンに組み込みたいロジェールのガスコンロも切り替え後でなければ使えないのです。
とはいえ、住宅の建設時期は変更したくないので、暖房給湯機器は現在使用できるものを設置することで決定。そして、ガスコンロは使用可能となるまで卓上のコンロを使用するという荒業の結論に達したのです。
見積り依頼と施工会社決定
Kさんと初めてお会いしてから約4カ月。一緒に考え、迷い、決断、決定してきた内容が盛り込まれた図面が全て完成しました。
同時に3社に見積りを依頼し、確認申請業務も平行で行います。各社に説明をした上で図面を手渡し、見積りをお願いします。若干の補足説明をしながら待つこと2週間。各社の見積書が提示されました。
三社三様の見積り金額ですが、それぞれとても健闘してくれたことが解る内容でした。この内容を一度私が比較検討した上で施主Kさんと共に決定に向けて話し合いました。
会社としての実績や規模、誠実さ、信頼度もさることながら、工事金額が最終的な目安になります。
その結果、見積金額が一番低かったS社に工事を依頼することに。既に確認申請は認可されています。これから先は工事請負契約を締結し、銀行融資の本申請、認可、土地の決済、そして着工へと突き進んでいくことになるのです。
(次号につづく)